「アイシン精機」は、トヨタ自動車グループの1社で、自動車部品および住生活・エネルギー関連製品を商品化しており、より良いクルマ社会や生活環境づくりを通して、お客様とともに、世界の市場とともに、人・社会・自然とともに、豊かな明日を開く企業グループを目指している会社である。
最近、アイシン精機梶@新規事業企画室・バイオ事業グループでは、「イムノメジャー 微量物質簡易測定システム」という環境、食、健康(医療)と関連するマーカーを感度良く、定量的に検出できる新しい測定装置の開発に成功し、社会で使われ始めている。
以下、グループマネージャーの藤田氏とのやり取りである。
藤田:
エスカオロジーは日本語では「食学」、あるいは「食理学」かと思うのですが、こういう測定装置はどのような位置づけになるのでしょうか?
松尾:
エスカオロジーの基本は「食に関する諸々の事柄をモノの道理から明らかにする学問」で、これを科学的に示すためには信頼性の高い分析機器が必須です。だから大いに関心があります。イムノメジャー(IMM)の原理はどういったものですか?
藤田:
測定原理は、免疫(イムノ)反応で起こる抗原と抗体間の特異的な相互作用を基盤とするイムノクロマトグラフィーで、抗体に標識した酵素によって色分子が約10万倍増幅する特殊な酵素を活用する検出方法により高感度化し、さらに測定装置により定量解析を行っています。操作は簡単で、リトマス試験紙くらいのチップ上にサンプルを添加して、抗体と反応するもの(抗原)があれば、色がついて判定できるようになっています(画像を参照)。

健康診断のときに尿を取って持って行くと、リトマス試験紙のようなものを浸け、色合いを調べますが、弊社のシステムは色の付き具合を肉眼ではなく測定装置で正確に読み取り、数値として表示させます。
松尾:
測定装置のサイズ、価格を教えてください。
藤田:
食パン一斤位のサイズで、PCB測定用として50万円位を想定しています。
(画像参照)。

松尾:
微量物質の濃度を定量的に測定するための装置は高価だろうと思いましたが、手頃な感じがしますね。これまでの検出事例にはどのようなものがありますか。
藤田:
幾つかありまして、環境汚染で有名なPCBの測定では一回1万円以下、従来1検体1ヶ月かかっていた検査を1日で48検体分測定できます。簡単に、感度良く、低コストで、分析会社でトランス油中PCB濃度測定(迅速判定法)に使われています。ところで、エスカオロジーと関係して「食」での応用は何か考えられませんか?
松尾:
食の安全での測定対象項目は沢山ありますが、食品に応用する場合は「国のお墨付き」が「食の安全の根幹」になっているので、安くて簡便な良い機器を開発しても、これと関連がなければ使ってもらえないという面があります。
藤田:
やはり、食関係でのマーケットは望めませんか?
松尾:
諦めるのは早いです。展開先としては三つあります。(1)第一は、中国市場での残留農薬や抗生物質などのモニターです。
藤田:
どちらもすでに精度の高い分析機器があるので、期待できないのではないでしょうか?
松尾:
そういう判断もありますが、例えば中国から日本に入ってくる食材の流れは、原産地(中国の内陸部)から東海岸に輸送されて、船に積まれます。中国側では、CIQ(中国国家質量監督検験検疫総局)の検査検疫に合格したものに輸出許可が出されます。しかし、あくまで抜き取り検査であり、日本側は輸入食品の輸入時検査を水際で実施しています。このシステムには国家間の事情や方針の差があるために、様々な問題がここ数年来発生しています。これを解消する目的で、大手食品企業は自前で国内外に分析ラボを持って奮闘しています。つまり、中国での安全検査として既存の機器分析を実施するには、ラボ施設、人材、分析機器、試薬が必要で、加えてこれを全て原産地で実施するのは大変困難です。その一方で、原産地では歩留まりを高くするためには、事前チェック体制が必要で、これがないとただ働きになってしまいます。
藤田:
成程、オンサイト(On site)でのモニターという位置づけですか。
松尾:
そうです。日本企業が、国内向けに生産している食材を原産地から出荷する際に特定項目のモニターで事前チェックし、その後は通常の必要な検査を受けて日本へ、という流れです。日本に来てから、不具合なものを押し返すのは多大なエネルギーが各方面でかかってしまいますので。測定項目についても十分に検討する余地はあると思います。
(2)第二に、オンサイトと言えば、ここ数年来話題になっている食品アレルゲンのチェックへの応用が考えられます。
藤田:
これも公定法がキーワードだと思いますが。
松尾:
その通りです。公定法がこれから出来上がっていくアレルゲンであれば、工場での製造管理にはぴったりですね。調査してみる意味はあると思います。
藤田:
欧米での市場性はどうでしょうか。
松尾:
これは第三(3)の展開先です。特にEUでの食品検査体制は日本とは異なり、「国家認証」ではなく、Proficiency(技量)試験方式です。EUの公的機関が、検査ラボ会社に濃度を伏せたサンプルを定期的に送り、出された検査値がどの程度真値に近いかいう技量を評価し、そのラボの信頼性を確認・保証する制度です。ですから、測定項目と機器性能・仕様が適合すれば、広まるチャンスは大いにあると予想できます。
藤田:
具体的には何から始めればよいでしょうか?
松尾:
「百聞は一見に如かず」でしょう。どうせ海外展開するのであれば、健康(医療)関係の実施例も持って行きたいですね。
藤田:
尿中の抗酸化マーカー(HEL)を測定できるという実例があります。
松尾:
それはストレスマーカーですね。産業医レベルでの使用が実現すると社員の健康管理にぴったりですね。EUでは「瞳孔の光応答チェック」がトラックドライバーの疲労度チェックとして行われていますので、生化学的なオンサイトチェックという意味で切り込める機会は大いにあるでしょう。
藤田:
オンサイトというか、防疫体制での一次検査での応用はどうでしょうか。
松尾:
メキシコで流行し、パンデミック(世界的大流行)になると懸念されている「新型インフルエンザ」の一次検査への応用は、直ぐには間に合いませんが、この種の感染症は今後も発生するので、ウイルス学者の方々をパートナーに開発を進めるというのはGood Ideaです。つまり、新ウイルスを検出するのではなく、既知のモノかどうかをチェックし、該当しなければ要注意で、二次(確定)検査するという流れです。
食と関連した「不健康あるいは未病状態」モニターへの応用例も含めてデータ取りしてもらえる協業先を探しましょう。そのためには、簡単な特徴を説明し、「抗体・擬似抗原をご提供いただければ、チップを作成し無償でお使いいただけます。その成果として、貴ラボで得られたデータは弊社との共同研究として学会等にて発表ください」というような協業の趣意書を作成し、興味を持ってもらうことが必須です。知財関係を明確にする必要がありますが、応用例が増えれば、海外展開もやりやすくなります。
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